いつのころからか忘れたが、本をいただくということがなくなった。
たぶんお手紙を紙とペンでいただかなくなってからと、同じ頃だろう。
そのことを 決して人と人の行き交いが減っているから、とは思いたくない。
そんな中、人づてに本をいただくというのは、その方が灯りになって、
僕が照らし出されたされたような面映ゆさがある。
「ほん。」という名の本、(株)JDC発行、絵本というとそうでなく。
多くが、平易な言葉で書かれているが、著者・森本武、北村容子両氏の、高い精神性が詰まっている。凛とした視線で貫かれたさまざまなものの見方が、フィールドワークのしたたかさで書き連ねられている。答えではなくヒントを自分で探すために、脳のあちこちがくすぐられて動き出す、そんな工具箱のような本だ。
昭和58年11月初版第一刷、そして平成3年8月に第二刷となっているが、そんなゆったりとした足取りも、静かな時の流れを隔てても変わらない道祖神のように、すっかり大きくなった子どもたちを暖かく見つめている。道理を忘れた大人たちには、時にちょっと怖く。
「ほん。」の前には、ある方が別れ際に本を置いて行った。
今度はこの本が、誰かが訪ねてくる前に、露払いにやって来たのだろうか。