ごあいさつ
さて、2008年5月に始めた、古楽を紹介するコンサートシリーズも、これで5回を終えたことになります。第6回のコンサートは、再びバロックに返り、「めくるめくポリフォニーの迷宮~フルートとチェンバロによる、バッハ父子の音楽」と題しました。
「ポリフォニー」とは、複数の旋律を同時進行で鳴らす、作曲・演奏技法のことです。
これまでのコンサートで、チェロ、ヴァイオリン、フルートなどの独奏で、みなさまにバッハの音楽を紹介してまいりましたが、独奏でありながらも、ポリフォニーの技法を楽器と身体性の限界まで推し進めたのが、それら バッハの楽曲の特長でした。
バッハは、独奏楽器のためだけに曲を書いたのではありません。複数楽器のアンサンブルのためにも数多く曲を書いています。
今回の、フルートとチェンバロのデュオは、基本的には3声(3つの旋律)の音楽です。つまり、フルート+チェンバロ右手+チェンバロ左手の3つの旋律が複雑に 絡み合いながら音楽が展開していく様が、聴き所になります。
バッハはポリフォニーの可能性を生涯頑固なまでに追究した作曲家ですが、息子たちの世代になると、次の時代の様式を模索し始めます。ポリフォニーは古臭いものとされ、音楽は、華麗な旋律とそれを支える和音、という構造に推移していきます。
その様式を完成させたのが、他でもない、モーツァルトとハイドンです。バッハの息子たちは、父大バッハの仕事とモーツァルトやハイドンの仕事の橋渡しをしたと言えます。
バッハの息子たちでその大いなる役割を担い歴史に名を残したのが、次男カール・フィリップ・エマヌエル(C.P.E.)・バッハでした。モーツァルトは、C.P.E.を「我が父」と言い敬意を示したと伝えられています。
コンサートでは、C.P.E.の作品が2曲演奏される予定です。私たちは、18世紀後半の音楽の変遷をつぶさに聴き取ることになるでしょう。
今回のコンサートでもう一つ注目されるのが、チェンバロ独奏による「シャコンヌ」です。
「シャコンヌ」はもともとヴァイオリン独奏のために書かれましたが、バッハの時代から様々な楽器に編曲され演奏されてきたらしいのです。
チェンバロによる「シャコンヌ」は当時としてはあり得る話であったかもしれませんが、現代ではたいへん珍しいことです。
独奏ヴァイオリンでは、限定的・暗示的であったポリフォニーが、鍵盤楽器で演奏することによって、より明確に浮かび上がってくることでしょう。
もちろんバッハ自身が編曲した楽譜は残っていないので、演奏者自身の編曲によるものです。演奏者のセンスが試される音楽とも言えます。
演奏にあたる、フルートの前田りり子は、昨年11月にもソロで演奏してもらいましたので、ご記憶のことでしょう。輝かしいコンクール歴・演奏歴をもつ俊英ですが、演奏のみならず、研究者として音楽史・演奏史にも深く通暁する稀にみる才女です。
チェンバロの大塚直哉も、ヨーロッパ古楽の滋養をたっぷりと吸収した鬼才で、遠くない将来にわが国の古楽界のリーダー的な位置を占めることになるのは、間違いのないところです。
2010年 春
(文・主宰提供)
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