笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2013-07-15

豪雨の後のコンサート



豪雨の後のコンサート

 梅雨は明けたと聞いていたが、リハーサル時から雷の音が轟き、開演一時間前には猛烈な豪雨となった。お客さんが集まるかと危惧したが、定刻になると、雨は上がり、礼拝堂は音楽を求める人々でほぼ満たされた。遠く京都、大阪、岡山、広島、福岡、長崎からも、お客さんが来られた。この演奏会への期待の高さに緊張する。

 自然がもたらしたまさにバロック的な演出に、演奏者が影響されたのかどうかはわからない。むしろ、やっとの思いで会場に到着したお客さんたちの、美を求める熱気に反応したのだろう。この日の演奏は、凄まじいばかりに白熱した。

 いずれ劣らぬ名人たちが集まったのだから、一定水準以上の演奏はほおっておいても聴くことができるだろう。しかし、この夕の彼らはそれに安住するところは微塵も感じられなかった。リハーサルでは、主にヴィオラ・ダ・ガンバの上村かおりが表情に細かく注文をつけ、音楽は密度を増していった。

 今回の演奏会は、フルートの前田りり子の依頼によるものであった。前田りり子は、私たちの古楽演奏会にすでに二度出演してもらっていたが、他の三人は、初めての出演であった。

 ヴァイオリンの寺神戸亮が素晴らしかった。完璧な技術によって、ときに荒々しくときに濃密に音楽を彩るとともに、アンサンブルをぐいぐいと引っ張っていく。これまでにバッハ・コレギウム・ジャパンで何度も聴いていたし、ソロも聴いたことがあったが、私にとっては今回がベストであった。前田りり子も負けてはいない。寺神戸、そして、上村、上尾らと取り交わす丁々発止の遣り取りは、水を得た魚とでも評すべきであり、フルートは弾力豊かなしなりをともなってぐんぐん飛翔していく。そして、全体のグルーヴ感は怒濤のごとく素晴らしいものであった。この感覚は、ヘンな誤解は避けたいが、むしろ最高にヒップなジャズやロックのそれであった。勝手な思い込みで恐縮だが、私は、同じく四人編成の梅津和時KIKI BANDを連想していた。


 あっという間の二時間であった。お客さんの多くは、テレマンの楽曲を知ってはいなかったであろう。しかし、そんなことは関係なく、誰しもが充足の面持ちで会場を去っていった。

 延広教会礼拝堂の響きは、いつもながら惚れ惚れするほど、温かく伸びやかで豊かであった。この礼拝堂で、この夕のような楽興の時を、いくどもったことだろう。宣伝・集客にはいつもながら苦労するし、もうこれで終わりにしようと、何度考えたことだろう。だが、こんな素晴らしい時を持つことのできる喜びを重ねるごとに、やめられなくなっちまうんだよな!

 お客さん、関係者のみなさん、ありがとうございました。


(全文・主宰 写真,改行・石原健)