笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2013-12-01

三宅さんのギャラリー / ジャズ大衆舎 on web #23

三宅さんのギャラリー

ある会合が終了して、参加者の一人が、小さなギャラリーを開いたのですが来てみませんか、と呼びかけた。私よりひとまわりほど年長と思われる笑顔の優しい紳士だった。みんな、それでは、と彼について行くことにした。手渡されたリーフレットには、いま開催されているのが「北川健次展」とあった。残念ながら、現代美術に疎い私はその作家の名前は知らなかった。が、リーフレットに掲載された、詩人のランボーの有名な写真にコラージュを施した銅版画の写真が気になった。
街なかでありながら、公営住宅があって、その広々とした前庭で子どもたちがサッカーに興じている。その甲高い声が澄んだ秋空にこだましている。そんな、どこか郊外を思わせる静かな住宅街のなか、それと知らなければ、間違いなく通り過ごしてしまいそうな、ビルの2階にそのギャラリーはあった。

入ってみると、ほんとうに小さいが、そのためにこそ、親密な空間があった。リーフレットには「5坪に満たない」とあったが、私には、心地よい狭さに感じられた。
そして、展示されている品々は胸躍る秘密の玩具のようであった。リーフレットに出ていた、ランボーのほかに、舞踏家のニジンスキー、パサージュ、サン・ラザール駅、オルセー美術館から見渡すモンマルトルの景…、などを素材に用いた銅版画、巧緻な仕掛けを施した木製の箱のオブジェ、が趣味よく並べられている。それは、ダダやシュールレアリスムの手法による表現のようであり、1920年代のパリそのもののように観えた。




私にとって、かつて親しんだ、そしていまは記憶の底に沈んでいた、美しいパリのアヴァンギャルドが、シュールレアリストの好む言葉を借りるならば、馥郁たる香気を孕んで、よみがえってきた。私は、夢中になってそれらの展示品に見入った。そして、オーナーの三宅さんと話し込んだ。30年にわたってコレクションしてきた品々を、自宅に死蔵しておくのがもったいなくて、このギャラリーを開いた、と。これらの作品を制作した北川健次さんは、三宅さんの師であり、現在東京で個展を開いている。ランボーの他に、カフカやオスカー・ワイルドをモチーフとしている作品もあった。十字架から降ろされたキリスト像を用いている作品もあった。きっと、文学や聖書にも造詣が深い人なのだろう。

ふと、三宅さんと不在の北川さんとそして私が、この小さな空間で文学や美術談義に花を咲かせているような錯覚におちいる。
気がつくと、一緒に来た連れの人たちはいなくなっていた。陽が落ちかかった街は、たそがれの寒気がやってこようとしていた。それでも、私の胸は子どものように熱かった。


Art collection & design miyake
720-0056 福山市本町4-5 2F
070-5675-6712 bouji161@yahoo.co.jp
OPEN(水~土)12:00~18:00


2013.10・11 北川健次オブジェと銅版画展
    12 瑛久「フォトデザイン」と池田満寿夫の「版画」展

2014.1 「油彩コレクション展」
     2 「上野省策銅版画展」
     3 「小さな銅版画百展」
     4 「横尾忠則の世界展」

(全文・主宰 写真,改行・石原健)