笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2013-11-14

スペインフェアでのピアノ演奏会

スペインフェアでのピアノ演奏会

 11月3日(日)、スペイン語の先生に誘われて、大阪のドーンセンターというところで催された、「スペインフェア」という催しに行って来た。その中で、スペインのピアノ独奏曲ばかりを紹介する演奏会が、2ステージにわたって企画されて、興味を惹いた。

 演奏するのは、下山静香というピアニストで、音楽のみならず、著作・翻訳・講演等を通して広くスペイン文化を紹介している、という。スペイン音楽に特化して演奏活動を展開するピアニストが、こんな形で登場するのは、いかにも今日的であり、喜ばしいことだ。

 音楽好き、ピアノ好きにとっては、スペイン音楽は、ドイツ・オーストリアを中心線とするならば、地理的には互いに辺境に位置するロシアよりも、もっともっと遠い位置にあるに違いない。自分にとっていうならば、スペインのピアノ曲に親しむようになったのは、まあこの10年くらいのものだ。それが、スペシャリストによって紹介されるのは、願ってもない機会であった。

 演奏されたのは、作曲家だけ挙げると、アルベニス(イサーク)、グラナドス、モンポウ、ファリャ、トゥーリナ、ロドリーゴ、アルベニス(マテオ)…。マテオ・アルベニスを除くと、19世紀後半から20世紀に渡って活躍し、いずれもが、音楽史の本流からやや外れた位置にいる作曲家たちと言えるだろうか。


 通して聴いてみて、どの曲も、生活や風土・風俗を感じさせる、というよりも意識的にそれに取り組もうとしているところに特徴があるように思った。私はスペインを訪ねたことがないが、そういう経験のある人が聴いたならば、にんまりとする場面もきっとあったことだろう、ちょっと悔しい。

 どれも作品の面白さを正当に伝えようとする演奏であったと思う。それでもふと、作曲家たちは実際にはどんなピアノを弾いたのか気になった。グラナドスもモンポウもファリャもフランスで学んだというから、エラールやプレイエルを弾いたのだろうか。だが、この日のステージには、現代の立派なスタインウェイが、でんとのっている。またしてもスタインウェイの悪口をいうのは本意ではないが、このピアノは、時代とか地方性とか、まあ訛りのような親和性をことごとく抽象化してしまうように聴こえる。酒場の猥雑な雰囲気、サロンの華やぎ、街の佇まい、人々の暮らしぶり、…そんなものは、この楽器からは聴こえてこない。すべてが凛としたコンサートホール響きに翻訳されてしまう。それがいつもながら残念ではあった。




(全文・主宰 写真,改行・石原健)