笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2010-08-09

武久源造の音楽に触れて●2010年8月2日 福山公演 コンセールジャズ大衆舎●

 武久源造の音楽に触れて    by optsuzaki


木が鉄より柔らかいと思い込んでいたのに、
鉄が変幻自在に「木の刃物」で切り取られたとしたら、
あなたはその時、うろたえるだろう。

私はいつの頃からか、視覚に訴える音楽を 低く見ていたようだ。

標題音楽であるなしにかかわらず、次々に繰り出される音の絵。
音楽が可視的なあまり、しばしば全盲であるという事実を忘れていた。

見えない人が、精緻な心象を 乱暴なまでに音で見せる。

なんという大仕掛けなパラドックスか。
健常者の「見ればわかる」したり顔は、何を見ているのだろう。


隅々まで熟知したカークマン・チェンバロのポテンシャルを
あるだけひっぱり出すような、演奏前の入念なメンテナンス。

(夜には次の公演があるにもかかわらず、翌日も早朝からさらに
ブラッシュアップしてくださったそうだ。主宰が感激していた。)

そしてこの小さくはない楽器を まるでギターを小脇に
抱えてかき鳴らすかのような、楽器と肉体の乖離のない
圧倒的な演奏が続く。

すべてがはっきりした輪郭で描かれる遠近法。
遠いものは、弱く小さいから「遠い」だけでなく、
音の質感の対比によって、前景へ、背景へと運ばれる。

音の走り屋が紡ぐ音楽には、視覚という光速ごときで追いついても、
なお乗り遅れているのかもしれない。きらきら星はスター・トレック。

それでも「最後に有名な曲をやります」と紹介があったときには
曲の始まる前から逆回転エコーのように、アリアが頭の中で鳴り響いた。
そして次の瞬間、現実の音と響きかわした。

曲が静かに終わる。      ...  いや、始まったのだ。

さぁて第一変奏、いってみようかぁ、と笑っていたのは、
聴き手の私だけでは、まさかあるまい。