笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2014-03-23

上野真 ベヒシュタイン・ピアノ・リサイタル 2014.3.7 尾道しまなみ交流館 / ジャズ大衆舎 on web #26

上野真 ベヒシュタイン・ピアノ・リサイタル 2014.3.7 尾道しまなみ交流館

 昨年11月同じ尾道しまなみで聴いた、上野真のリサイタルには魅了された。あのときは、19世紀前半の楽器2台を弾いたが、今回は、1906年製のベヒシュタイン。尾道東高校が所蔵する楽器を借り出しての演奏会だった。当然、前回演奏会の続編と位置づけられる。

 開演5分前に滑り込んだにもかかわらず、真ん中のいい席がとれた。

 プログラムは、ベートーヴェン、ショパン、ラヴェル、ドビュッシーと前回同様、ヴァラエティ豊かだ。このピアノから多彩な音色や表現を導き出そうという、演奏者の意図が読み取れる。

 弾きだされたピアノの音は、たしかに、古くはあったが、それでも思ったほど古くはなかった。前回聴いたシュタイン・フォルテピアノ(1820)は、現代のピアノとは違う美意識のもとで作られた、ピアノとは違う楽器であるように思えたが、100年前のベヒシュタインは古雅ではあっても紛れもなくピアノの音であった。ただ、音はやや小さめで少し枯れた風情で上品、現代のピアノのような力強さやきらびやかさは感じられない。中高音域の速いパッセージが愛らしく聴こえる。

 というわけで、前回よりも、私の関心は、演奏そのものに、つまりピアニストにむかうことになった。上野真というピアニストは極めて優秀な演奏家だ。どの作曲家のどんな作品でも、これしかあるまいと思わせるほど的確な表現をする。演奏の技術も抜群だ。

 ショパンの「練習曲」作品10は、ちょうど1週間前に横山幸雄の演奏を聴いたばかりだったが、どちらも甲乙つけ難い、見事なものだった。上野真は、極めて切れ味鋭く、曲の性格を浮き彫りにする、硬質のショパンだ。ラヴェルは、「水の戯れ」「オンディーヌ」が演奏されたが、色彩感ゆたかで、鳥肌が立つほどの美しさと気品の高さ。ラヴェルが素晴らしかったためか、ドビュッシーはピンとこなかったが、アンコールで弾かれたリストの「スペイン狂詩曲」は見事だった。

 ただ、馬鹿みたいな曲ではある。前回も最後はリストの「メフィスト・ワルツ」だった。おそらく、最後にお客さんを楽しませようという配慮と、このピアノの表現の「限界」のようなものに迫ろうという意図によるものだろう。テクの素晴らしさを見せつけようという気持ちもなくはないだろう。私としては、前回、シュトライヒャー(1846)で弾かれたブラームス、あの哀愁と深みある表現で締めて欲しかった。
でも、いい演奏会だった。




(全文・主宰 写真,改行・石原健)