笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2011-11-09

地震学の今後 研究深め防災に生かそう

かつて地質学にかかわった者の間では、最近よく出る話ですが、
こうしたディスカッションが必要な時が来ているように外から見て感じます。
貴重な記事として、あえて転載いたします。

 

 

地震学の今後 研究深め防災に生かそう

10月19日(水)

信濃毎日新聞

会場に入りきれず外にも人があふれた。15日に静岡市の静岡大で開かれた特別シンポジウム「地震学の今を問う―東北地方太平洋沖地震の発生を受けて」である。

日本地震学会秋季大会の催しの一つとして行われた。

3・11の東日本大震災は、大津波と原発事故で深刻な事態となった。復興に苦闘している。

地震研究者が社会に果たしてきた貢献が不十分だったのではないか。どこが問題だったのか、今後どうすべきか―。自らを真摯(しんし)に問い直す試みは評価できる。国民も関心を寄せたい。

<想定できずを自省>

シンポは四つの分野で研究者が報告し、論議した。

(1)なぜ想定できなかったのか。

(2)地震学会は国の施策とどう関わるのか。

(3)防災のために何が足りなかったのか、いかに向き合うべきか。

(4)教育の現場やメディアで地震学の知見をどう伝えるか。

どれも避けて通れぬ問題だ。

東北大大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センターの松沢暢さんは、マグニチュード(M)9という巨大地震の発生可能性を予見できなかったことは、研究者として痛恨の極みとした。

この問題を多くの研究者が重くとらえている。学会による会員へのアンケートでは、想定できなかった原因として▽データ不足▽理論が未熟▽学会員の意識不足、の順に高かった。

地震学の知見は防災に役立つと思っている研究者は、程度の差はあっても合わせると9割にのぼる。だが、防災に役立つような知見が実際に役立てられていると感じるのは7割だった。この差をどう埋めていくかだ。

<多くの分野で課題>

想定できなかった問題で、東大大学院で教える井出哲さんは▽海域での観測が不十分▽沈み込み帯の理解が足りなかった▽地質学的年代スケールでの情報を生かせなかった―を挙げ、これらは対策を立てやすいとした。

問題は健全な批判精神の欠如とする。例えば、定義があいまいな言葉を無批判に使うことだ。

いま地震学が社会に貢献できることは地震予知ではない。地震現象を科学的に理解し、説明能力を向上させて確率的にでも予測能力を上げていくことだ―。井出さんの言葉は説得力がある。

国の施策との関係も熱心に論じられた。地震学に欠けているのは、震災を未然に防ぐ社会を構築するための批判精神だとの鋭い指摘があった。

確かに、福島原発事故の根底的な原因は、日本列島の地震・津波情勢を軽視して原発を増やしてきた政府や社会のせいといえる。国や電力会社は、このことを重く受け止めるべきだ。

防災問題で若手研究者が積極的に報告した。京大防災研究所の女性は、早期地震検知システムで新幹線が脱線せずに停止した成果を評価した。だが、余震で多くの地震が同時発生したことにより、震源決定の混乱などがあった。改善の意欲を語っている。

過去の巨大津波を正確に把握し、防災に生かしたい。平安時代・869年に起きた貞観津波が堆積物研究の成功例とされる。日本各地の津波堆積物を調べ、巨大津波のリスクを明らかにする必要がある。調査には研究者・技術者の育成が急務だと、若手男性研究者は強調していた。

特別講演では、東大大学院のロバート・ゲラーさんが予知の根拠とされる地震の予知現象について確たるものは見つかっていないなどとし、現行法や直前予知体制を白紙に戻し再検討すべきだと訴えた。論議のあるところだろう。

自由活発な意見のやりとりが地震学を進展させる。来春までにまとめる提言が待たれる。

<糸静線にも注目を>

長野県民の関心を集めたのは、13日に石橋克彦神戸大名誉教授が発表した新説だ。東海、東南海、南海地震が連動するだけでなく、県を貫く「糸魚川―静岡構造線(糸静線)断層帯」も連動し、超巨大地震が発生する可能性があるとする内容である。

国レベルの防災対策見直しの可能性が出てきた。学説の検証が必要だが、時間をかけ過ぎて巨大地震が先に起きては困る。

東海地震防災対策強化地域に指定されているのは、県内では諏訪や上下伊那の25市町村だ。警戒態勢を広げることも視野に入れて検討する必要があろう。

県や市町村の防災体制を強化したい。地震の惨状や学会で浮上した問題点、新学説をしっかり受け止めて対応すべきだ。

1960年代の松代群発地震で当時の町長は「学問がほしい」と述べた。その頃と比べて地震学は格段に進んだ。さらに深めて防災に役立ててほしい。

研究成果を学校や地域でも積極的に学びたい。研究者らを招き地震学について話してもらえば、新たな研究者も育つだろう。