90年頃、新店舗ができるまでの間、僕は読者モニターの一人として、同誌編集の方には、ずいぶんお世話になりました。新店舗の構想に明け暮れていた僕にとって、振り返っても恵まれた時期でしたが、とりわけ緊張したのが、岡本さんとの技術談義でした。
往時から今に至るまで、岡本さんは業界人なら誰もが知るきっての論客であり、対すメーカーや販売店組織の大小など歯牙にもかけない氏には、時に爽快な気持ちだけでなく、計り知れない畏怖の念がありました。駆け出しの青二才の聞き手とはいえ、これはいささか大変なお役...。
そうして腹を決めて大阪のお店にインタビューに伺いましたが、小一時間のやり取りの一貫したトーンは、決して正論・空論のゴリ押しなどではありませんでした。
「あなたがこの仕事をどう考えるかで、作るものが決まります」
...少し拍子抜けさえしましたが、このお言葉の意味は、今なお、日に日に深まる一方のように思います。そうして1992年から遠く離れても、「正しい眼鏡」の幻想をじわりと糺す“怖いオヤジ”の教えは、僕の仕事への問い返しの原点です。
そんなインタビューが終わり、少し柔和なお顔で「一人オヤジでは熱が出ても、這いながら仕事せんとアカンもんね。石原さんは弟さんが補聴器もなさるん? それはイイね。」と...。
岡本さん、どうぞ安らかな旅立ちでありますよう、心からお祈りいたします。
The Eyes1992・1月号 |