笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2012-01-08

ジルバーマン・フォルテピアノ再び!

ジルバーマン・フォルテピアノ再び! 


武久源造は、最新作のCD「New Perspective on BACH未来系バッハへの道」(ALM ALCD1127)で、全編にわたってジルバーマン・フォルテピアノを弾いている。この楽器を用いてのCDは「バッハmeetsジルバーマン・ピアノ」(ALCD1107)が出ているから、最新作はその続編と言っていいだろう。しかし内容は、前作がソロであったのに対し、今回はコンチェルトであり、ジルバーマン・フォルテピアノの可能性探究の いっそうの深化であり、言うまでもないことであるが、武久源造がこの楽器からいまも創造力を沸き立たせる何かを受け取っているということの証左であろう。

録音によるものなのか、楽器の特性なのか、この録音では、最小編成のアンサンブルとフォルテピアノとの、生々しいダイレクトな音のやりとりが聞こえてくる。さらに、フォルテピアノの内声部の音の動きが生き物のようにうねるのがよくわかる。題名は忘れたが、ソニー・スティット(テナーサックス)とバド・パウエル(ピアノ) らのセッションで、ソロのみならずバッキングに回ったバド・パウエルが、ぐいぐい コンボを引っ張っていく、あの音楽の推進力を思い出した。しかし、チェンバロになれた耳にはある種の違和感を覚えないでもない。それは武久源造自身が解説で語っているところであり、その違和感こそが音楽探究の偉大な源であり、それを「未来系」 と称する所以でもあるように思う。

正直なところ、筆者はバッハのコンチェルトの熱心な聴き手ではなかった。これまで 聴いてきたCDでは、上品だがどこかよそよそしい印象があって、その世界に没入していく何かが足りなかったような気がしていた。武久源造のバッハ:コンチェルトの求心力を、音楽的に説明するのは筆者には出来ないことだ。だが、歴史的考証を徹底しつつも、なおかつその先にある音楽の可能性を洞察する、大胆な直感と情熱は、不世出のこの音楽家にしかなし得ない境地と言えるだろう。

さて、桐山建志(ヴァイオリン)とのデュオの演奏会が近づいてきた。この演奏会で、武久源造は、そのジルバーマン・フォルテピアノを持って来る。どの曲でこの楽器を弾くのか、ヴァイオリンとの響きはどのようなものになるのか、興味深い。2010 年10月に我々が催した武久源造の2回目のリサイタルで、すでにこの楽器は紹介されている。古楽をただのもの珍しさだけでとらえるならば、それで済ましてよいかもしれない。しかし、我々はほんとうの音楽、生々しくリアルな音楽を体験したい。


(全文・主催者 写真,改行・optsuzaki)