金時鐘 on 毎日新聞
8月2日金曜日、いつものように、洗濯物を外に干しに出て、そのついでに新聞受けから朝刊を持って家に入り、開いてみると驚いた!(いや、驚くことではないのだが…)
金時鐘先生が、なんと半ページにわたってカラー写真入りで紹介されているではないか!
「毎日新聞」の「プロの本棚」という、現代の著名な文筆家の書斎を訪問するというシリーズでの記事だ。金時鐘のような大詩人が、このような扱われかたをするのは、なにも驚くにあたいしないだろう。むしろ当然と言うべきだろうか。しかし、自分の身に引きつけて言うと、長い時間、それは必ずしも忠実ではなかったかもしれないが、この詩人を読み続けた者のひとりとして、ひとしおの感慨がある。それに、この2月、私の厚かましい申し入れに応えて、面談して下さったときのことを思うと、思わず目頭が熱くなってしまった。
記事の中で、「解放」(日本の敗戦=植民地支配からの「解放」)のときのことを、金時鐘が語る。
「頭から足の先まで皇民化教育を受け、当時はそれを疑うことない少年だった。なまじ解放に出会ったばかりに、皇国少年の私はひとり、敗れた日本からもおいてけぼりを食った。」「白日にさらしたフィルムのように私の中の何もかもが黒ずんでしまい、努めて身につけた日本語がまるで、闇の言葉になってしまった。」
エッセイや詩編の中で繰り返される、金時鐘の原点の姿だ。
ところで、詩人の紹介文の中にうれしいニュースを発見した。今秋、『猪飼野詩集』が岩波現代文庫に収められる予定だという。記事には「初期詩集」とあるがこれは誤りで、むしろ壮年期の傑作というべきで、私は金時鐘の代表作の一つだと思っている。「解放」をめぐる自らの立ち位置についてはもちろん、大阪猪飼野に住む在日の生き様が、まるで身を寄り添うように、描かれていて、私としては第一に薦めたいと思っている詩編だ。それが文庫化されるとは、なんという喜びだろう!(私は、単行本を3冊持っているが…)
とこで、金時鐘は、自らの半生を、岩波書店の『図書』に、2011年6月号より連載している。(不覚にも私は金時鐘先生ご自身から教わった。)もう2年を超える連載となっており、やがては、一冊にまとめられるのであろうが、はたしていつ完結するのだろうか。そう感じるほどに、詩人がこれほど自身のことを丹念に語ったことはなかったと思われる。
(全文・主宰 写真,改行・石原健)
(全文・主宰 写真,改行・石原健)