笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります
2014-03-19
横山幸雄 ショパンを弾く(第1回)2014.2.28 アップル・ツリー / ジャズ大衆舎 on web #25
横山幸雄 ショパンを弾く(第1回)2014.2.28 アップル・ツリー
私たちの街の中心部に小さなホールが出来たという噂を耳にしたのは、たしか11月くらいだった。しかも、スタインウェイ・ピアノを備えているという。そのホールで、ピアノのリサイタルが催されるというので、興味津々で聴きに行った。
「アップル・ツリー」と名付けられたこのホールは、4階建のビルの4階に位置する。折り畳み椅子が60脚ほど並べられ、そのむこうに立派なピアノがあった。横山幸雄というピアニストはたいへん有名だが、これまでライヴはおろか録音でも一度も聴いたことがなかった。自分の関心とすれ違ってきたからだろう。このホールで、12回にわたって、ショパンのピアノ作品を年代順に全曲演奏するのだという。1回目は、ショパン15歳から20台前半の作品が取り上げられた。
最初に「ロンド作品1」と「マズルカ風ロンド作品5」が演奏された。どちらも、グランドスタイルの派手な曲で、いかにも若書きといった感じだ。同世代のシューマンの作品1は「アベッグ変奏曲」だが、曲の感じが似ているな、と思った。音楽家として立つということは、社交界にデビューするということだったのだろう。そのためには、こうしたグランドスタイルの手持ち曲が必要だったのかな。
次の作品6と作品7の「マズルカ」集は、一気にショパンの世界だ。肩の力の抜けた等身大のショパンだ。続いて、嫋嫋たる情緒をたたえる「3つのノクターン」作品9、そして、最後は、ヴィルトゥオジティ大爆発の「練習曲集」作品10。そのいずれもがショパンそのものでありながら、一方でまるで、3人の作曲家が別々に作った曲であるかのごとく、実に多様で豊饒な世界だ。
横山幸雄は、曲の性格を的確に把握して、それぞれの曲の個性を見事に描き分けた。会場が小さく、ごく近い距離で聴くことができたことも手伝ってか、音楽の量感、陰影、表情が、濃やかに描出されるのを、堪能することができた。また、どんな小曲でも、聴かせどころを巧みに演出するのも、さすがコンサート・ピアニストというべきだろう。
聴き飽きたつもりでいたショパンだが、思いがけない発見をしたみたいだった。まだ、ポロネーズも、バラードも、スケルツォも出て来ない。数か月に一回のペースで演奏会は催されるようだ。楽しみだ。
(全文・主宰 写真,改行・石原健)