笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります
2013-06-02
プログラムに寄せて ~ 前田りり子
テレマンは非常に多作家で総作品数は4000曲を超えるといわれています。室内楽曲だけでも200以上残していますが、その中でも名曲中の名曲といわれているのが パリ四重奏曲です。
生涯を通じてあまり大きな旅行をしなかったテレマンですが、一度だけ八ヶ月に及ぶパリ旅行を行っています。1730年にハンブルグで出版した四重奏曲がヨーロッパ中で高い評価を得て、それを気に入ったパリの演奏家たちの招きによってテレマンはパリを訪れます。そして彼を招いてくれた当時最高の演奏家たち、フルートのブラヴェ、ヴァイオリンのギニョン、ガンバのフォルクレ(息子)らに演奏してもらうために書かれたのがパリ四重奏曲です。1738年にはパリでさっそく印刷され、その楽譜をJ.S.バッハも購入しています。
今も昔も人は様々ですが、18世紀の音楽家たちにもいろんなタイプがいました。J.S.バッハは神との対話のため、神の国を地上に再現するために音楽を作りました。ヘンデルはなんといっても当時人気髄一のオペラ作曲家、現代でいうならヒット・ソングメーカーというところでしょうか。啓蒙主義者だったテレマンは、音楽を誰でもが楽しめるものにするために、まずは分かりやすい音楽を描くことをモットーとしていました。
テレマンの音楽にはいつも、まるで親しい人と会話をしている時のような心地よい時間が流れています。またアマチュアが苦労をせずに楽しめる室内楽曲の出版にも力を入れています。そのため現代人から見ると時に単純すぎると感じることもあるのですが、花のパリを代表する方々のために書いた力作、パリ四重奏曲は他の曲とはちょっと違っています。演奏者の技術を考慮することなく、持てる最高のアイデアを惜しみなくちりばめた曲、それがパリ四重奏曲です。
共演して下さるのはヴァイオリンの寺神戸亮さん、ヴィオラ・ダ・ガンバの上村かおりさん、チェンバロの上尾直毅さんとみなさんいずれもよく御存じの名手の方々です。一昨年前に東京で今回と同じメンバーでパリ四重奏曲集全曲演奏会をいたしましたが、パリ風の繊細で優雅な音の遊びに、演奏者も観客も一緒になって酔いしれながら大好評のうちに公演を終えました。演奏者自身、あまりにその時の演奏が楽しかったので、ぜひもう一度したいよねと盛り上がり今回の企画が立ち上がりました。
今回の公演ではパリ四重奏曲だけではなく、その出版のきっかけとなったハンブルグ四重奏曲、そして個々の楽器の良さを思う存分堪能できる無伴奏ファンタジーも加えた盛りだくさんプログラムになっています。テレマンならではの軽妙で和やかな時間を皆様と一緒に楽しめたら嬉しいです。
前田りり子
(全文・前田りり子 写真,改行・石原健)